吉田調書報道「公正で正確な姿勢欠けた」 報道と人権委
朝日新聞社の第三者機関「報道と人権委員会」(PRC)は12日、東京電力福島第一原発の元所長・吉田昌郎氏(故人)に対する政府事故調査・検証委員会の聴取結果書「吉田調書」をめぐり、同社が今年5月20日付朝刊で報じた記事について見解をまとめた。調書の入手は評価したものの、「報道内容に重大な誤りがあった」「公正で正確な報道姿勢に欠けた」として、同社が記事を取り消したことを「妥当」と判断した。
PRCはまた、報道後に批判や疑問が拡大したにもかかわらず、危機感がないまま迅速に対応しなかった結果、朝日新聞社は信頼を失ったと結論づけた。
1面記事「所長命令に違反 原発撤退」について、①「所長命令に違反」したと評価できる事実はなく、裏付け取材もなされていない②「撤退」という言葉が通常意味する行動もない。「命令違反」に「撤退」を重ねた見出しは否定的印象を強めている――と指摘。
吉田調書には、指示が的確に伝わらなかったことを「伝言ゲーム」にたとえたほか、「よく考えれば2F(福島第二原発)に行った方がはるかに正しいと思った」という発言もあったが、記事には掲載しなかった。PRCは「読者に公正で正確な情報を提供する使命にもとる」とした。
2面記事「葬られた命令違反」については、「吉田氏の判断に関するストーリー仕立ての記述は、取材記者の推測にすぎず、吉田氏が述べている内容と相違している。読者に誤解を招く内容」と指摘した。
一方、吉田調書を入手して政府に公開を迫り、原発の重大事故への対処に課題があることを明らかにしたことは「意義ある問題提起でもあった」と評価した。
PRCは取材過程や報道前後の対応も検証。情報源の秘匿を優先するあまり、調書を読み込んだのが記事掲載の直前まで2人の記者にとどまった▽紙面製作過程で記事や見出しに疑問がいくつも出たのに修正されなかった▽上司たちが取材チームを過度に信頼し、役割を的確に果たさなかった――などの問題点を指摘した。
社外からの批判と疑問を軽視し、行き過ぎた抗議を行ったとして、編集部門と広報部門のあり方を見直すよう提言。新聞ジャーナリズムの柱の一つである調査報道をより組織的に展開するための改革を求めた。
またPRCは、朝日新聞の総合英語ニュースサイト「AJW」に「東電の所員は命令を無視して福島原発から逃げた」という見出しが掲載され、海外にも誤解が広まったと指摘した。
一方、デジタル版の特集については、本文の一部を訂正するよう求めた。
PRCは吉田調書や東電の内部資料など約60点を精査。取材記者ら延べ26人から直接聞き取り、37人から報告書の提出を受けた。
◇
〈西村陽一取締役・編集担当の話〉 報道と人権委員会(PRC)から「読者の視点への想像力と、公正で正確な報道を目指す姿勢に欠ける点があった」と報道機関の基本に関わる厳しいご指摘を受けました。重大な誤りを引き起こした責任を痛感しています。東京電力福島第一原子力発電所の方々をはじめ、みなさまに改めて深くおわび申し上げます。
私たちは報道の原点に立ち返り、社外の方々の意見や批判、疑問に耳をすまし、新聞づくりに生かす仕組みをつくります。また、PRCの提言を受け、調査報道を強化するため、より組織的に展開する改革に取り組みます。全社員が全力で信頼回復に努めることをお誓いいたします。
朝日新聞社の第三者機関「報道と人権委員会」(PRC)は12日、東京電力福島第一原発の元所長・吉田昌郎氏(故人)に対する政府事故調査・検証委員会の聴取結果書「吉田調書」をめぐり、同社が今年5月20日付朝刊で報じた記事について見解をまとめた。調書の入手は評価したものの、「報道内容に重大な誤りがあった」「公正で正確な報道姿勢に欠けた」として、同社が記事を取り消したことを「妥当」と判断した。
PRCはまた、報道後に批判や疑問が拡大したにもかかわらず、危機感がないまま迅速に対応しなかった結果、朝日新聞社は信頼を失ったと結論づけた。
1面記事「所長命令に違反 原発撤退」について、①「所長命令に違反」したと評価できる事実はなく、裏付け取材もなされていない②「撤退」という言葉が通常意味する行動もない。「命令違反」に「撤退」を重ねた見出しは否定的印象を強めている――と指摘。
吉田調書には、指示が的確に伝わらなかったことを「伝言ゲーム」にたとえたほか、「よく考えれば2F(福島第二原発)に行った方がはるかに正しいと思った」という発言もあったが、記事には掲載しなかった。PRCは「読者に公正で正確な情報を提供する使命にもとる」とした。
2面記事「葬られた命令違反」については、「吉田氏の判断に関するストーリー仕立ての記述は、取材記者の推測にすぎず、吉田氏が述べている内容と相違している。読者に誤解を招く内容」と指摘した。
一方、吉田調書を入手して政府に公開を迫り、原発の重大事故への対処に課題があることを明らかにしたことは「意義ある問題提起でもあった」と評価した。
PRCは取材過程や報道前後の対応も検証。情報源の秘匿を優先するあまり、調書を読み込んだのが記事掲載の直前まで2人の記者にとどまった▽紙面製作過程で記事や見出しに疑問がいくつも出たのに修正されなかった▽上司たちが取材チームを過度に信頼し、役割を的確に果たさなかった――などの問題点を指摘した。
社外からの批判と疑問を軽視し、行き過ぎた抗議を行ったとして、編集部門と広報部門のあり方を見直すよう提言。新聞ジャーナリズムの柱の一つである調査報道をより組織的に展開するための改革を求めた。
またPRCは、朝日新聞の総合英語ニュースサイト「AJW」に「東電の所員は命令を無視して福島原発から逃げた」という見出しが掲載され、海外にも誤解が広まったと指摘した。
一方、デジタル版の特集については、本文の一部を訂正するよう求めた。
PRCは吉田調書や東電の内部資料など約60点を精査。取材記者ら延べ26人から直接聞き取り、37人から報告書の提出を受けた。
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〈西村陽一取締役・編集担当の話〉 報道と人権委員会(PRC)から「読者の視点への想像力と、公正で正確な報道を目指す姿勢に欠ける点があった」と報道機関の基本に関わる厳しいご指摘を受けました。重大な誤りを引き起こした責任を痛感しています。東京電力福島第一原子力発電所の方々をはじめ、みなさまに改めて深くおわび申し上げます。
私たちは報道の原点に立ち返り、社外の方々の意見や批判、疑問に耳をすまし、新聞づくりに生かす仕組みをつくります。また、PRCの提言を受け、調査報道を強化するため、より組織的に展開する改革に取り組みます。全社員が全力で信頼回復に努めることをお誓いいたします。
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