祖父・東郷茂徳の命日に墓を訪れ、墓石に水をかける和彦氏=7月23日、東京都港区の青山霊園、内田光撮影
(戦後70年へ)孫たちの靖国と戦争
東京・九段の靖国神社。猛暑の境内に、濃い灰色のスーツを着た元外交官・東郷和彦氏(69)=京都産業大学教授=の姿があった。
「ここに立つと、神道の雰囲気を実感しますね」
靖国神社は、戦死した日本軍人・軍属らを「神」としてまつる神社だ。そこに和彦氏の祖父も含まれている。太平洋戦争期に外相を務めた東郷茂徳(1882~1950)だ。
文官である外相がなぜ、まつられているのか。
A級戦犯だからである。
41年12月、太平洋戦争が始まったときの外相が茂徳だ。敗戦後に戦争指導者として逮捕され、巣鴨プリズン(東京)に収容される。東京裁判(極東国際軍事裁判)で48年、禁錮20年の判決を受けた。2年後、服役中に病死した。67歳だった。
茂徳の女婿は外務事務次官だった東郷文彦(1915~85)で、その息子が外務省条約局長などを務めた和彦氏だ。和彦氏は「3代目」の外交官だった。
巣鴨にいた著名な祖父を持つもう一人の人物が、安倍晋三首相(59)である。
「お前のじいさんはA級戦犯の容疑者じゃないか」
子供のころから言われてきた、と首相は自著で明かしている。そうした言葉への反発から自分は「保守」に親近感を持ったのかもしれない、とも。祖父とは、元首相の岸信介(1896~1987)である。
靖国神社に参拝した安倍晋三首相=昨年12月
岸も開戦時の閣僚(商工相)だった。A級戦犯容疑者として巣鴨プリズンに約3年間、幽閉された。東条英機元首相ら7人の絞首刑が執行された48年12月、不起訴で釈放された。53年の衆院選で政界に復帰。57年に首相の座に就いた。
東京裁判は勝者による一方的制裁だ、犯罪人という意識は全くなかった――後に岸はそう語っている。
岸の女婿は安倍晋太郎元外相(1924~91)で、その息子が晋三氏。現首相もまた3代目である。
昨年12月、安倍首相は靖国神社に参拝した。
同神社には78年に、14人のA級戦犯が合祀(ごうし)された。その後、戦争指導者を神とする神社に首相が参拝することの是非が政治・外交問題となった。合祀された14人の1人が東郷茂徳だ。
「遺族として合祀はありがたいことだと思っている」と孫の和彦氏は話す。だが近年は、首相による参拝は一時停止されるべきだと訴えている。「遺族としての情と国益は分けて考えねばならない」という。
戦死者の追悼はどうあるべきか、戦後という時代をどう評価するか――孫たちの判断は一様ではない。