ヨウ素剤、全国初の住民への事前配布 鹿児島・薩摩川内
原子力発電所の重大事故時に甲状腺被曝(ひばく)を防ぐ安定ヨウ素剤の配布が27日、九州電力川内原発のある鹿児島県薩摩川内市で始まった。国は昨年、原子力災害対策指針を改定し、原発の半径5キロ圏内の住民に前もって配るようにした。これを受けた事前配布は全国で初めて。
川内原発については、原子力規制委員会が新規制基準を満たすとする審査書案を16日にまとめ、秋にも再稼働の可能性がある。
27日は、原発5キロ圏の4地区に住む3歳以上の住民のうち、事前の問診で副作用がないと判断された2756人分の錠剤が用意され、2420人分が配られた。五つの会場で薬剤師らが服用や保管の方法を説明し、錠剤が入った小袋を渡した。誤飲を防ぐため、小袋には氏名、服用数、3年間の使用期限を記したシールを貼った。
錠剤は3~12歳は1粒。13歳以上は2粒。3歳未満の乳幼児は錠剤が飲めず事前配布の対象外のため、避難先で薬剤師がシロップに混ぜて配る方針。
原発から約3キロの寄田町新田集落の自治会長、中向幸一郎さん(64)は、家族4人で配布会場の公民館を訪れた。受け取ったヨウ素剤は、避難時に位牌(いはい)と一緒に持って行けるよう自宅の仏壇に保管した。
気がかりなのは、事前配布されない生後4カ月の孫娘のことだ。避難の間に被曝しないか心配で、「大人だけ先に服用して、子どもを後回しにしていいのか」と戸惑いを口にする。
50代の女性会社員は家族3人分の錠剤を受け取った。平日は車で約15分の市中心部で働いており、「仕事中に事故が起きたらどうしたらいいのか。ヨウ素剤を取りに帰れないし、肌身離さず持ち歩くわけにもいかない」と話した。
川内原発の5キロ圏内の3歳以上の住民は4715人で、うち2千人近くは配布の前提となる問診を受けてないという。県と市は9月以降も説明会と問診を進めていく方針だ。(小池寛木、田中啓介)