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1度の青信号で3000人が利用するも“人身事故はゼロ” スクランブル交差点から再起を図る渋谷のブランディング戦略

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 2008年10月1日、観光立国の推進体制を強化するために観光庁が発足されると、2008年当時で約835万人だった訪日外国人の数は、2013年を境に1000万人を超えた(日本政府観光局データより。2017年では2869万人)。奇しくもその頃、渋谷を訪れる外国人観光客から、ある意見が多く寄せられるようになった。

 渋谷には、「渋谷のお土産」が無い。

  「無いというよりは、極端に無いんです。そもそも渋谷は、商業とビジネスで育ってきた街。109、西武、PARCO、レコードショップなど、国内外の人々が日々アップデートされる街。最先端のファッションやカルチャーを感じに来る場所です。例えば北海道なら、牛乳やジャガイモがある。それらがキャラメルやヨーグルト、チョコレートになる。大阪に行けば、お好み焼き、たこ焼きがある。でも、渋谷と言って思い浮かぶ『味』も特産品も無い。つまり、観光資源が無いんです」

 そう話すのは、一般財団法人渋谷区観光協会の理事長を務める金山淳吾さん(40)。観光案内所や観光マップ、地域のイベントづくりなどを担うために渋谷区観光協会が設立されたのも、同じ時期にあたる2012年のことだったという。

 では、渋谷の「観光資源」とは何か――。

 そんな課題と向き合っていた2015年のこと。東京大学と東京芸術大学の学生から、ブランドデザイン授業の一環として、「渋谷らしさ」を模したお土産のアイデアを受け取ったという。

  「渋谷ってお土産が無いよね、という話が発端になったようです。ペーパーにして4㎝ほどの厚さになる、学生たちのアイデアが詰まった冊子が渋谷区に届きました。その多くはハチ公とスクランブル交差点に関連したものでした」

 改めて渋谷の象徴であるハチ公とスクランブル交差点に着目したことで、さまざまなヒントや発見が、さらにアイデアをブラッシュアップする過程で学生たちが行ったリサーチによって、新たな気づきも得られたと金山さんはいう。

 「学生たちが警察にヒアリングをした結果、スクランブル交差点が利用されるようになって以降、『人身事故が一度も起こっていない』ということがわかりました。ピークタイムである夕方の17時~19時では、1回の青信号で3000人が渡る。1日にするとおよそ50万人(駅の乗降客数による算出)が利用する交差点で人身事故がゼロ。しかも、あんなに忙しい街なのに、人々がぶつからないことを前提に、秩序を保って行き交っている。それって、渋谷(日本)ならではの文化ではないでしょうか」

  2016年には、数多のアイデアから選ばれた初代「渋谷御守」のプロトタイプが作成された。スクランブル交差点の形をした御守型チャーム。表面の渋谷御守の文字上にはハチ公の足跡に見立てた印もあるいかにも渋谷らしい御守だ。今回2代目として誕生した「渋谷御守」は、表には渋谷のスクランブル交差点が、裏には忠犬・ハチ公の刺繍がされている。

  「スクランブル交差点は神社仏閣ではないので、当然、何の願掛けにもなりません。ただ考え方によっては、日々の安全、または人と人が『揉めない・ぶつからない』というストーリーを含んだ、渋谷らしいお土産になるのでは」と、金山さんは期待を語る。

  スクランブル交差点の刺繍を見ると、四辺に加え、斜めの1本しか刺繍が無いことに気づく。実はスクランブル交差点は正方形ではないため、長くなる斜めの一辺を通行可能にしてしまうと、青信号で渡り切れない人、さらには交通渋滞の原因にもなる。それを予防するための工夫だという。過去に人身事故が無ければ、細やかな工夫もある。実にユニークな交差点なのだ。

渋谷に潜在する「無形の魅力」を形づくる挑戦

 この一件を機に、「渋谷区のお土産を作る」という有識者の会が立ち上がった。しかし、流行や文化など「無形の魅力」から形ある商品を作る作業は容易ではなかった。

  「スクランブルという味を作ってみたらどうだろうか? という意見もありましたね。ハチ公の『8』と掛けて、8種の風味がスクランブルされた味とか(笑)。八つの酒蔵の味をミックスして日本酒を作ろうなどと盛り上がったりもしたのですが、それは日本酒の規定に抵触するということで断念しました。渋谷には東京タワーも無ければ、スカイツリーも無い。ましてや大きな牧場など......」

  結局、渋谷らしく、渋谷の流儀で訪れる人々を楽しませるには、イベントしかないという結論に至った。渋谷にあるコンテンツをネットワークさせて人々が楽しめる街にする。それが金山さんの考えだ。

  「そのためにまずは、作り手が集まりたくなる空間づくりが必要です。そこから先は各々の分野で観光資源やコンテンツを磨いてもらう他ないのですが、私たちがやるべきはまず、より魅力的な街づくりがしたくなる機運を作っていくことだと考えています」

  その他、パブリックスペースの有効活用と活性化、エンターテインメント化など、やりたいことを挙げれば枚挙に暇がない。しかしそこには、さまざまな制限もあるという。

  「日本では外国の都市のようなストリートパフォーマーの活動は、基本的には違法行為になってしまう。昔は歩行者天国がありましたが、今は道路使用許可を取得して特例的なイベントとして行う必要があるんです。外国人観光客の側に立てば、渋谷に行けば、面白いストリートパフォーマーがいるのでは? アイドルが歌っているのでは? という印象はあるはずです。パブリックスペースをステージに変えられたら、とても面白いことになると思っています」

  御守をきっかけに動き出した、渋谷の新たなブランディング戦略。金山さんたち渋谷区観光協会が掲げたスローガンは「PLAY!DIVERSITY SHIBUYA」。多種多様な楽しみが眠る渋谷のこれからが楽しみだ。

(C)AbemaTV

(2018年9月1日「1度の青信号で3000人が利用するも"人身事故はゼロ" スクランブル交差点から再起を図る渋谷のブランディング戦略」より転載)


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