「こんにちは」。土曜の午後、まきさんと悠さんは待ち合わせの場所に笑顔でやってきた。ふたりはパートナー同士で、娘の琴音さん(仮名)と一緒に東京都内で暮らす。
まきさん、悠さん、琴音さんは、LGBTQファミリーだ。
トランスジェンダーの悠さんは、自認する性別は男性だが、女性の体で生まれてきた。恋愛対象は女性だ。
まきさんはパンセクシュアルの女性で、恋愛対象は性別を問わない。
ふたりの娘の琴音さんは、まきさんが以前に男性と結婚していた時に生まれた。3月に高校を卒業し、現在18歳だ。
この20年で、同性同士が結婚できる地域は世界で26に増え、社会の中でLGBTQのファミリーの存在が見えるようになってきた。InstagramなどのSNSには、子育て中のレズビアンやゲイ、トランスジェンダーの人たちの家族写真がたくさん投稿されている。
それでも、日本ではまだLGBTQファミリーのことはあまり知られていない。
職場や親戚には家族のことを話しにくい、と感じているまきさんと悠さん。ふたりに、LGBTQファミリーとして感じている喜びや不安を聞いた。
🌈3人が家族になるまで
まきさんと悠さんが出会ったのは2013年。その後、九州に住んでいた悠さんをまきさんが東京に呼び寄せる形で、琴音さんとの3人生活がスタートした。
多感な年頃の琴音さんに配慮して、まきさんは最初悠さんのことを「友人」と紹介した。
悠さんのセクシュアリティは伝えなかったが、「どこかの時点で気づいたんじゃないかな」と悠さんは感じている。
これまで子供を育てた経験がない悠さんにとって、中学生の琴音さんとの接し方は、試行錯誤だった。
「悩みというほどでもないけれど、日々の距離感のつかめなさはありました。『これをした方がいい』とか伝えたいことはあるけれど、生活のスタイルが違うから、向こうからしたら余計なお節介だったりするわけですよ(笑)」
ただそれは、悠さんが思ったことを遠慮なく話せる関係を築こうとしてきた、ということでもある。
受験を控えた琴音さんの家庭教師をしたり、好きなアニメを一緒に見たりして、悠さんは琴音さんとの距離を少しずつ縮めた。
🇨🇦カナダで結婚。だけど日本では…
一緒に暮らしていくうちに、正式にパートナーになりたいという気持ちが強まったまきさんと悠さん。
琴音さんが中学校を卒業する時、まきさんは思い切って「悠さんも家族として卒業式に出たい。だから家族になってもいい?」と琴音さんに聞いた。返事は、まきさんも驚くくらいあっさり「いいよ」だった。
その後、今度は「悠さんと結婚したいと思っている」と伝えた。琴音さんは少し身構えるような姿勢を見せたが、「わかった」と頭を縦に振った。
2017年8月、まきさんと悠さんはカナダで結婚式を挙げた。
カナダでは正式な家族になったものの、日本ではふたりの結婚は認められない。職場などで嫌な思いをしたり、不安を感じたりすることも少なくない。
まきさんは、職場でのLGBTQに対する偏見のある言動に、不快な思いをしている。
「差別的なことを平気で口にする人たちがいて、心の中でそれは私を傷つけているんだよって思っています」
税理士事務所を知人と共同経営している悠さんは、開業前に収入がない時期があった。結婚した夫婦であれば相手の扶養に入れるが、悠さんにその選択肢はなかった。
「あなたは単身でしかない。一人で頑張れよと言われている気持ちになりました」と悠さんは振り返る。
多くのLGBTQファミリー同様、何より心配なのは病気や事故が起きた時に、家族として認めてもらえるかどうかだ。
数年前に悠さんが手術をした時には、病院と話し合ってまきさんを配偶者として認めてもらえた。
しかし、手術の同意は「実家のご家族に十分に説明を」と言われ、日本では手術の同意書にサインする権利がない現実を、改めて突きつけられた。
もしどちらかが倒れてICUに入るようなことがあったら、相手のそばにいられるのだろうか。不安は絶えない。
💥琴音さん爆発事件。親子として、家族として
まきさんと悠さんが相手のことを語る言葉には、出会えたことへの感謝と相手の思いやりが込められている。
まきさんは悠さんのことを「こんなに居心地がいい相手は初めて。10年後や20年後を一緒に考えていける相手がいて、これまでで一番幸せだなと感じています」と話す。
悠さんは、相手の気持ちをさりげなく汲みとってくれるまきさんに、これまで味わったことのない安心感を感じている。
「女性の体を持って男性として生活するって結構しんどいんですよ。毎月来るものの処理をどうするかということは、パートナーにも知られたくない」
「でも彼女は、私が女性の体で相手と対峙することにとても居心地よく振舞ってくれる。だから、全然無理しなくてよかった。頑張って男らしく振舞ったり、作ったりしなくていい人は初めてでした」
娘の琴音さんの存在も大きい。悠さんと会うまで、LGBTQの人についてほとんど知らなかったが、お母さんのパートナーとして突然現れた悠さんに対して、戸惑いや嫌がる様子を見せたことはないという。
悠さんは、自分は琴音さんにとって必ずしも「親」という立場ではなくてもいいと感じている。
「私の立場は、親とはちょっと違うと思うんです。琴音さんの父親になってって言われたら、自分ももっと身構えていたと思うんです」
「彼女にとってのパパは、血の繋がった父親。だからこの子にとって、もう一人サポートできるような大人がいるのがいいんじゃないかなと思っています。自分にとっても、そういうポジションがちょうどいいなと思います」
時々、琴音さんがまきさんには秘密にしていることを、悠さんにこっそり話してくれることもあるという。
「パパとかママとかに言えないこともあるのかもしれません。そういうのを聞ける大人が一人いればいいいかな、と思って」
そんな琴音さんが、一度だけ爆発したことがある。
「一年くらい前かな。それまで何も言わなかったのに突然爆発して、『離婚したのは、本当は悠さんと付き合っていたからじゃないか』とまで言いました」とまきさんは振り返る。
そんな琴音さんを見て、「実は我慢させてしまっていたのでは」と悠さんは感じた。
「10歳の時に両親が離婚して、寂しい思いもしたんじゃないかなと思います」
「(まきさんと悠さんが再婚したことに)多分文句もいっぱいあっただろうに、それはあんまり出したことがないから。(自分が家族になって)『本当は嫌だったよね?』と聞いたら『うん』というかも(笑)」
爆発したのは、その一度だけ。あとは以前と変わらず、悠さん、まきさんと接している琴音さん。
15歳の時に、ママにトランスジェンダーのパートナーができたことを、本当はどう感じていたのだろう。一度だけ爆発した時は、何を感じていたの?
琴音さんにも、気持ちを聞いた。
👉後半「15歳のとき、ママにトランスジェンダーのパートナーができた。LGBTQファミリーになって感じたこと」
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